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最高裁判所第三小法廷 昭和24年(れ)655号 判決 1949年8月09日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人大橋茹及び同斎藤寿の上告趣意第一点について。

旧刑事訴訟法にいわゆる証拠物と証拠書類との相違は、前者に於てはその物理的存在自体が問題であるのに対して、後者に於てはその存在は明白であり、唯その記載内容が犯罪事実の証明に役立つという点に存すること所論の通りである。大審院の判例は、証拠書類とは当該訴訟に関し作成せられ証拠の用に供せられる書面を指称するものである、との解釈を維持して來たが、(例えば昭和七年二月一八日判決、第一一巻八四頁)かような文書はその存在及び成立については特別の場合を除く外全く疑を生ぜず唯その記載の内容のみが証拠となるものであるから、この解釈も結果に於ては上記の見解に背馳するものではない。從って右の判例は、旧刑事訴訟法の解釈に関する限り、新憲法の下に於ても、これを変改する必要を認めない。さすれば所論の被告人に対する檢事の聽取書や被害者に対する司法警察官の聽取書が証拠書類であることはいうまでもないことであるのみならず、所論黒田道宅作成の診断書も亦、証拠書類に属する。蓋しこの診断書は、被害者が被告人から傷害せられた部位程度を報告するために作成せられ、捜査官憲に提出せられ、本件記録に編綴せられた文書であって、その文書の成立についてはその後の審判手続においても別段争われた形迹のないこと記録上明かである。即ち本件の手続において作成せられて、その存在自体並に成立が問題とされたのではなく、その記載内容のみが証拠となったのであるから、証拠書類にあたるものである。(昭和二三年(れ)第一六三一号、同二四年三月二九日最高裁判所第三小法廷判決参照)。それ故に原審裁判長が証拠調に際して右の各書類を被告人に展示しなかったからとて、旧刑訴法第三四一條第一項に違反するいわれはなく、論旨は理由がない。(その他の判決理由は省略する。)

以上の理由により旧刑訴法第四四六條に從い主文の通り判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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